第十三話  沙土煮尊(さひじにのみこと)

十三年前、最後のサラリーマン生活を終え、東京都品川区大森での最後の夜、夢を見ました。「古代伊予国の女神」が突如現れたのです。

翌日は家内の両親の介護で松山市へ転居するために、最後の確認を済ませて羽田空港へ急ぎました。

この慌ただしさの中で「女神の名前」をすっかり忘れてしまいました。

松山を起点に、図書館・神社通いを続けましたが、どうしても思い出せません。

松山での生活にも慣れたある日、大学生時代の仲間と「大山祇神社」に詣でました。その時、目にしたのが、『三島宮御鎮座本縁並寶基傳後世記録(以下、「御鎮座本縁」と略す)』です。

「古代伊予国の女神偟根尊(かしこねのみこと)を終に思い出したのです。ところが、地元の神社研究者・古代史研究者に尋ねてもさっぱりわかりません。

「女神偟根尊(めがみかしこねのみこと)」を見いだしてから、七年後に「ブログひぼろぎ逍遥」を主催する古川清久氏から「百嶋神社考古学」をご教示いただきました。

そして興奮しました。「面足尊は金山彦、女神偟根尊は埴安姫」であることが判明したのです。

大山祇神社に関する四史料を精読し、「百嶋神社考古学から見る伊豫の古代」と題する論文を発表した次第です。

『三島宮御鎮座本縁並寶基傳後世記録(以下、「御鎮座本縁」と略す)』

「七代の天皇日本根子彦太瓊天皇(孝霊天皇)、日本国黒田廬戸宮にて天照大神相與に大山積皇大神と祀り給ふ。是れ三島神徳の始めなりと云々。伝に曰く、此の御代、天下穏やかならず、順はざる民多く叛く。茲に因りて、天皇、大巳貴神に盟い、天下平らかに国民順はしめんことを祈り給ふ。大巳貴神夢に告げて曰く、君、天下平らかに国民順はんことを冀ひ給はば、先ず面足・偟根尊此の二柱の神を祭るべし。是則ち大山積大神なり、と申し教へ給ふ。これに依りて天照大神と相与に祭り給ふと云々。」

前置きが長くなりましたが、「第六代 面足尊(陽神)と偟根尊(陰神)」を検討してみましょう。

○面足尊(おもたるのみこと)は瀛氏(いんし)統領金山彦

○女神偟根尊は埴安姫(はにやすひめ)またの名を草野姫(かやのひめ)、兄は白族統領大幡主

○大山祇神社に伝わる生土祭(しょうどさい)

1.面足尊こと金山彦

金山彦は鉱山開発を三つのグループに編成していたようです。

(1)日本海側

日本列島はニュージーランド・カナダと共に世界の三大砂鉄産地の一つで、日本海側の

砂鉄はとりわけ良質で、当初は直接製鉄法(たたら製鉄)により、鉄器具を量産していっ

たと考えられます。

(2)中央構造線沿い

図  中央構造線 出典:Wikipedia(2021/09/24 22:15)

赤線が中央構造線 青線で囲まれたオレンジ部分はフオッサマグナ

伊豫国では現在の石鎚山で採取を続けていたようですが、目当ての鉄鉱石・金・銀の採掘量は少なく、多量に採掘できる「銅」は、当時の需要が少なく、早々に移動したと推測します。

(3)朝鮮半島

「弁辰国」へ進出し、当初は鉄鉱石を採掘していましたが、後に間接製鉄法技術を獲得し、鉄製品の生産力が高まり、徐々に鉄製品の交易に重点を置いたと推測します。

このような活動が遠因となり、金官伽耶国王系月讀命との「百年戦争」が起こりました。

2.偟根尊またの名埴安姫・埴山姫・草野姫(かやのひめ)

故百嶋氏の講演会記録よれば、古代は「通婚制度」が常態化していたそうです。夫が複数存在し、格式の高い妻の元へ繁々と通っていました。

格式で比較すると、埴安姫の最初の夫面足尊こと金山彦は、埴安姫の方が格式は上位で、二人の関係は主人埴安姫、家臣金山彦になります。

二人の間には、後にスサノオの妻となる櫛稲田姫が生まれました。

「八岐大蛇退治」神話の実態は「月讀命Vs金山彦」で、調停の報酬としてスサノオは櫛稲田

姫を獲得しました。

二番目の夫は越智族統領月讀命こと大山祇(おおやまづみ)で二人の間には神大市姫(かみおちひめ)・大己貴命(おおなむちのみこと)後の大国主・コノハナサクヤ姫が生まれました。

埴安姫を祀る神社を調査すると不思議な現象が確かめられます。

(1)埴安姫または埴山姫を単独で祀る神社

・灰寶(はいぼ)神社 愛知県豊田市越戸町

ご祭神:波爾安避咩命   土師部の祖といわれています。

・形原神社 愛知県蒲郡市形原町八ヶ峯

ご祭神:埴安大神 大和国から勧請したといわれています。

・畝尾坐健土安(うねびにますたけるはにやす)神社 橿原市下八釣町

ご祭神:埴土安比売命・天児屋根命(夫ではありません)

・波爾移麻比禰(はにやすひめ)神社 徳島県美馬市脇町北字庄原

ご祭神:埴山姫神

・馬岡新田神社 徳島県三好市井川町井内東

ご祭神:埴山姫神

・土生田(はにゅうだ)神社 新潟県南蒲原郡田植大字羽生田

ご祭神:埴安姫命

・越敷(おしき)神社 新潟県佐渡市猿八

ご祭神:埴安姫命

(2)埴安姫+金山彦(火産巣日神・軻遇突智神)で祀る神社

全国の秋葉社・愛宕社・榛名神のご祭神

  • 埴安姫+大山祇神で.祀る神社

・磐梯神社 福島県耶麻郡磐梯町八幡

ご祭神:大山祇命・埴山姫命

・迩弊姫(にべひめ)神社 島根県大田氏長久町土江

ご祭神:埴夜須毘賣神   合祀神:大山祇神

以上のデータから、三人の子供を為した大山祇神と共に祀る神社が極端に少ないことに驚きます。夫婦仲が良くなかったのでしょうか。

愛媛県今治市大三島の大山祇神社のご祭神は「大山積大神」一座です。明治四年に作成された『伊豫國越智郡宮浦村大山積神社明細帳』が記す境内・境内外摂末社にも埴山姫は祀られていないのです。

3.大山祇神社に伝わる生土祭(しょうどさい)

大山祇神社の最も古い神事に「毎年1月7日に行われる生土祭」は安神山の赤土拝戴神事を斎行し、「御串山」の榊枝と共にお迎えする神事で、神前に清められた赤土を献供し、宮司以下全員が額に赤土の神印を拝戴し、続いて串木を持ち、素朴な楽を鼓に和して奏する神事が伝えられています。

   生土祭の根幹をなすのが「赤土すなわち埴」で、「草野姫(かやのひめ」)、亦の名埴安姫」が同祭の信仰対象であったと考えられますが、なぜ隠されてしまったのでしょうか。

写真 大山祇神社 今治市大三島町宮浦 出典:同社公式HP

「日本総鎮守」「宝物殿には鎌倉時代の古刀の逸品がずらりと展示されています。興味のある方

は是非ご覧ください。」

主祭神:大山積神

表 埴安姫を中心とする家系

血縁関係 神名 生年 またの名など
白川伯王 AD90年 刺国大神
白族の女 AD?
神玉依姫 AD107年 神武天皇の御母(おんはは)
大幡主 AD110年 思兼神・大若子・天穂比命など
本人 埴安姫 AD113年 埴山姫・草野姫・偟根尊など
金山彦 AD106年 火産巣火命・軻遇突智神など
長女 櫛稲田姫 AD134年 瀬織津姫
大山祇命 AD111年 月読命
次女 神大市姫 AD136年 罔象女
長男 大巳貴命 AD142年 大奴彦・大国主
三女 木花咲耶姫 AD150年

注)生年は故百嶋氏の推定

 

   次回は第五代大戸門辺尊(おおとまべのみこと)です。

 

 

 

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